T-Topスタンド 開発後記
小型ブックシェルフスピーカー用のSide-Pressスピーカースタンドを世に送り出して1年半。
何とかピュアオーディオ用のスタンドとして認知されるようになり、多くのユーザ様に迎え入れられた。
更に良い音質のスタンドを求めて、試作を繰り返したが、
逆にSide-Pressスタンドは、改良の余地がないほどの完成度に達していると思い知らされることとなった。
構造と方式の影響が著しく大きいことを再認識する結果にもなった。
一方、JBL4312、4318等の大き目のスピーカーをお使いになられているお客様からは、
何度となくSide-Pressが使えるか?作れるかとの問い合わせを頂きながら
ごめんなさい、無理です・・と答えざるを得ないことが多々あった。
私自身が、かつて長期間にわたり、YAMAHAのNS1000Mを使っていたこともあり、
何とかしたいな・・と思いつつも
正直に言うと、今の時代にあの頃の音を持ち出してくることもないだろう・・・と考えていた。
そんなある日のこと、
従来型のSide-Press試聴予備機を機材のスタンドにするつもりで飛び出している縦支柱を切断、キャップを付けた。
2台を抱き合わせるようにしてスタンドの脚にすれば良いと思ったわけである。
ふと思いついてそこにメキシコ製の三角断面の変り種スピーカー「スパイカ」を乗せた。
これは、ユニットが相当の傾斜角で上に向いているため、設置が難しいスピーカー。
今まで鳴らして良い(使える)と思った音が出たことのないスピーカー。
こいつが何か解き放れたような音を出しているように感じる。
SP底面をスパイクで受けたら面白そう・・・遊び心が出てきた。
後部支柱を結ぶ横バーにドリルで穴を開け、M8のタップを立ててみた。
どうせやるなら・・と思い、ピッチを変えて幾つか穴をあけた。
スパイクを立ててスピーカーをセット。
side-press改造スタンドとスパイカ
出てきた音は、意外や意外! これは使える!と直感させられる音。
さすがに従来標準型を使ったので背が高すぎ、バランスもおかしいが、とにかく定位感が良い。
Side-Press方式ではないが、このスタンドは足だけでも使える!
ひょっとすると大型ブックシェルフにもいけるのではないか!
先のJBLユーザさん達への答えにもなると直感した。
ここまで来るとあとは作って試すだけ。
幾つかの案を考え図面を起こし、高さ・形状の異なる何種類か試作を開始した。
一方、肝心の大型ブックッシェルフも手元になかったため、オークションを物色。
手ごろな大きさで音の変化が分かれば良いと割り切って探したところ
YAMAHAのNS−700XMonitor と NS−100Xを発見して入手した。
かつて使った1000Mに似ていたというのが理由・・・。
とりあえず昔の手法でゲタをはかせて音出しをしたが、やっぱりな・・・という音。
NS-700X Monitor 赤松無垢100mm角ブロック・弊社製機器スタンド
低音ボコボコ、音離れが悪くてスピーカーにまとわり付くような音。
いかにもスピーカーから音が出ています、みたいな状態。
無垢鉄棒を使った機器スタンドは、比較的マシだったが背が低すぎて低音が膨らみブーミーな印象。
基本的にはスピーカーが床に近すぎるのも一因と推定した。
やがて試作スタンドが到着。
スピーカーをセットをして音出しをした瞬間に驚いた。
まるで別物、音がこちらに向かって飛んでくる印象すらある。
音質はともかく、思いのほか定位感が良い。
これは天板を廃した構造によるものが多いと考えた。
音場の広がりもSide-Pressを思わせるものがある。
構造的にスタンド支柱の振動が抑制されるSide-Pressに比較すると、
スタンドの鳴りが少し乗るせいか、音が明るいのも印象的。
試作・検証スタンド
使えないと思っていた過去のスピーカーが、これは聞ける! と言わせる程度までに変身している。
他のスピーカーもすべて同じ傾向を示した。
大型ブックシェルフの持ち前の迫力や重量感も褪せていないし、
何よりも非常に、と言って良いほど低音の明瞭感が増している。
スタンドの形状は、最終的にSide-Pressと同様の形状となった。
名称は、当初はToplessを考えたが女房の大反対に屈し、月並みな名称になってしまった。
発売開始も間もないある日のこと、
お客様の協力を得て、豊かで音楽的な音色で好評のHarbeth HL
Compactによる聴感テストも行うことができた。
Harbeth HL
Compactは、このスタンドの対象に考えていたスピーカーの一つである。
従来スタンドによる再生は、ハーベスの特徴を良く表した音であり、聞きやすいが箱鳴りとスタンドの鳴きが影響し、
中低音の混濁感も含め、独特の響きになっていることが確認できた。
T−TOPスタンドに変えた瞬間に音は一変した。
クリア・鮮明という言葉が似つかわしくないと言っても叱られないハーベスに現代の息吹が付加された。
音楽的な表現はそのままに、部屋の空気感が一変したような広く鮮明な音場に変わったのだ。
持ち込まれたお客様は、驚きを隠しきれない様子。
箱鳴りを意識させる雰囲気は、ほとんど感じられない。
ワイドレンジ感は、ないものに実に自然で聞きやすい音が広がっている。
低音の充実感が見事である。
オーディオを忘れて音楽と安らぎに没頭できる音である。
ハーベスがこのような響きで鳴ることを信じられない方も多いと思う。
これは、ハーベスではないと異論を掲げる人もいるだろうが、
この魅力的な音は、新しいハーベスの音と言いたいと考えるし、元に戻す人はいないと確信する。
Harbeth
HL Compact 従来スタンドによる再生の様子
Harbeth
HL Compact T−TOPスタンドによる再生の様子
このスタンドは、最新型大型ブックッシェルフへの適用は勿論だが、
ハーベスのような箱鳴りタイプのスピーカーをはじめ、
1980年代に多く流通した大型3WAYブックシェルフをお持ちの方にお勧めしたい。
驚愕という言葉がぴったりの驚きと感動を得られると思います。
時代に逆行するような製品かも知れませんが、
大切に使ってきたオーディオ機器に新しい命を吹き込むのも「あり」と思っています。
皆様はどうお思いになられますか。
2005.11.1 ファミリーアーツピュアサウンド 代表 志賀